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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2110号 判決 1967年1月18日

理由

本件土地が被控訴人の所有であること及び右土地に控訴人のため被控訴人主張のような根抵当権設定登記及び転根抵当権設定登記がなされていることは、いずれも当事者間に争がない。

次に被控訴人の請求原因一の事実のうち消費貸借契約及び根抵当権設定契約締結の事実は根抵当権の期間の定めのあることを除いて当事者間に争がなく、右根抵当権に被控訴人主張のような期間(与信契約についての存続期間)の定めのあつたことは、《証拠》により認めることができ、他にこの認定を左右する証拠は存在しない。

そして請求原因二の事実即ち昭和三六年一二月一七日に控訴人と被控訴人との間の契約で右五五万円の貸金債務の返済期を同年一二月三一日に改めたこと、同三の事実中右返済期に被控訴人と控訴人との間に被控訴人主張の債権以外に債権債務がなかつたこと及び同四の事実すなわち控訴人が昭和三七年三月六日に同日現在の右貸金の元利金及び遅延損害金合計七八万六六一一円の債権を右抵当権と共に白井三郎に譲渡し、右抵当権移転の本件付記登記を了し、同年九月四日右譲渡の旨を被控訴人に通知し、被控訴人がこれを承諾したことも控訴人の争わないところである。

《省略》

《証拠》を併せれば、控訴人と白井との間において登記簿記載のような内容の転抵当権設定契約が締結された事実を認めることができる。そうして控訴人は昭和三七年三月一四日頃白井に依頼して右転抵当権設定の旨を被控訴人に通知し、なおその際被控訴人はこれを承諾したと主張し、右主張には転抵当権設定者である白井が通知をなし、同人に対して承諾がなされたとの趣旨の主張が含まれているものと解せられるので、この点について判断する。主たる債務者である被控訴人において転抵当権の設定を承諾したことを認めるべき証拠は存在しない。しかし昭和三七年九月四日控訴人から白井への債権及び抵当権の譲渡の通知が被控訴人に対してなされ、被控訴人がこれを承諾したことは前記のとおり当事者間に争がなく、右日時以前に渡辺仁晴が前記転抵当権設定の事実を知つていたこと、及び被控訴人が右渡辺及び白井と通謀のうえ弁済を仮装したものと認められることは前掲認定のとおりである。そうして右各事実に前掲各証拠を併せれば、被控訴人としても遅くとも昭和三七年九月四日までには白井から右転抵当権設定の事実を通知され、これを了知していたものと確認するのが相当である。

《証拠》中右認定に反する部分は採用せず、他にこの認定を左右する証拠は存在しない。従つて控訴人としては右転抵当権をもつて被控訴人に対抗し得る筋合であるから、被控訴人の主張はその理由がない。

最後に被控訴人の請求原因八の主張について考えるのに、一般に転抵当権は原抵当権の把握している担保価値を、その把握している範囲内において他の債権の担保に供するのであるから、本件におけるように転抵当権の被担保債権の弁済期が原抵当権のそれよりも後に到来する場合においても、原抵当権について弁済期が到来している以上原抵当権の被担保債権の債務者としては転抵当権についての弁済期到来前においても適法に弁済をなし得ることとなるのであるが、だからといつてこのような場合には転抵当権の設定自体が無効となると解しなければならない理由はない。従つて被控訴人の主張はそれ自体理由がない。

然らば被控訴人より控訴人に対し、本件抵当権設定登記及び転根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める本訴請求は失当であつて、原審がこれを認容したのは不当である。

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